「アンコールの森」再生支援プロジェクト
2011年7月(三井物産環境基金助成事業:第4回モニタリング)

「アンコールの森」再生支援プロジェクト訪問記録
訪問者: 寺田 幸弘
訪問期間:2011年7月15日から19日までの5日間

IDCJでは、2006年からJSTと協力しカンボジアのアンコールワット周辺で「『アンコールの森』再生支援プロジェクト」を実施しています。

今回は、同プロジェクトの活動状況を視察するため、2011年7月15日から19日までの5日間にわたり現地を訪問し、プロジェクトの活動に同行しました。
 
 同プロジェクトは、はじめは遺跡の周辺に郷土樹種の植林をするプロジェクトでしたが、今では活動を拡大し、地元の小学校を活動の中心に据え、環境・衛生教育を行いつつ植樹も行う環境保全プロジェクトとなっています。

今回の現地訪問中に視察した主な活動は、三井物産環境基金からいただいた資金で実施している小学校での環境ワークショップ(2011年度は5校を対象に実施)と、村の子供たちの栄養補給を目的としたコミュニティセンターでの雑炊会です。加えて、東京新橋ロータリークラブ、東京レインボーロータリークラブの両クラブからご支援をいただき書棚と絵本を贈った小学校や植樹サイトの現況も視察することができました。

 今回環境ワークショップを視察した学校は、ドンオブ小学校です。また、ワークショップ終了後、2011年度から2年間に環境ワークショップを実施した小学校全8校(2010年度3校、2011年度5校)を回り、各学校で、施設の外観や子供達の遊び、校庭に植えた苗の生育状況も視察しました。


村の青年グループにワークショップの段取りの説明を行うJST代表チア氏

環境ワークショップ・・・

「環境ワークショップ」というのは、「地域の環境改善はまずは学校から」という認識の下に、小学校に子供たちを集め、「生活・住環境の改善」、「保健衛生の改善」、「森林の保全」の重要性を子供たちに説明し、子供たちがその意味を理解したところで子供たちと一緒に小学校の校庭に植樹を行うという活動です。活動を主導するのは、JSTの代表チア・ノルさんとプロジェクトが組織したアンコールクラウ村の青年グループのボランティアメンバー17名です。青年グループのメンバーが自分たちで画用紙に描いた絵を見せながら子供たちの注意を引きつけて、環境改善・保全の重要性を教えます。単調に説明をするのではなく、ゲーム感覚で子供に質問を投げかけたり、復唱させたりと、子供たちの理解度を高めるための工夫が感じられました。ワークショップの回を重ねる毎に青年グループも活動に習熟してきたことを窺い知ることができました。

「生活・住環境の改善」では、生活ゴミの捨て方と処理の仕方を扱っています。カンボジアでは、多くのゴミが天然素材からビニールなどの人工素材に変わってきているにもかかわらず、未だ多くのコミュニティで生活に伴って発生するゴミを家や学校の周辺に投げ捨てるのが当たり前となっているそうで、自然には分解されない生活ゴミによる生活・衛生環境の悪化が問題になっています。実際、訪問した小学校の校庭にも、お菓子の包装フィルムなどのゴミがあちらこちらに落ちていました。なぜ、学校にこんなに多くのゴミが落ちているのだろうと不思議に思いましたが、聞いてみると、子供たちが休み時間に校庭の一角の売店で売られているお菓子を買って食べ、そのゴミを辺りに捨てているためだということでした。ワークショップでゴミのポイ捨てがよくないことを学んだ子供たちは、ゴミを決められたゴミ箱やゴミ捨て場に捨てるようになります。また、校庭に散らかったゴミをみんなで拾い集めて処分することにより、子供たちも先生もきれいな校庭を保つことの大切さを実感するようです。


校庭に掘られた穴に集められたゴミ

環境ワークショップについて説明するボランティアのサンボー先生

「保健衛生の改善」では、子供たちに、食事前の手洗い、調理した食べ物の保管の仕方、朝昼晩の歯磨き、衣服の洗濯、飲み水の煮沸、シャワーによる体の洗浄、トイレ後の手洗い、蚊帳の使用などを説明し、衛生的な生活をするために必要な知識を教えています。学校には、水道がないところがほとんどで、多くは水を校舎から離れた場所にある井戸で組み上げています。トイレの後でも手を洗う習慣がない場合が多いとのことでした。絵を見せながら青年グループのメンバーが各項目を一つひとつ説明し、ときどき手を上げさせたりして子供たちの理解度を確認していました。


絵を使って衛生について説明する青年グループメンバー

植樹とその意味について説明する青年グループメンバー

「森林の保全」では、保水、治水、気候や土壌の安定などの森の機能を説明し、森を保全することの大切さを説いていきます。そして、「自然災害に遭わないコミュニティをつくるために木を植えましょう」と子供たちに呼びかけています。ここでも、自然の豊かな森の絵や、森が無くなり大風で家が壊される絵などを使いながら、子供たちの注意を集めました。

 一通り青年グループによるセッションが済んだところで、代表のチアさんが青年グループの説明に対する感想を訊ねたところ、「よくわかりました」「環境を守ることはとても良いことだと思います」「ご飯の前には手を洗います」など子供たちから元気な答えが返ってきました。

 こうして環境の勉強が一通り終わると、次はいよいよ子供たちみんなで植樹です。この小学校には、コキを80本、マンゴー20本、合計100本の苗木を植えました。プロジェクトで手配してあらかじめ校庭まで運んでおいた苗木を持って子供たちが植樹に向かいます。前もって掘っておいた穴に苗を植え、土をかけ、水をやります。そして、牛に葉を食べられないように苗の周りに木と針金で柵を結います。マンゴーは大きく育つと実がなるため学校から植樹の要望が強いようですが、JSTの小出さんによれば、マンゴーの苗木はコキに比べ3~4倍の値段がするそうです。また、マンゴーは、せっかく植えても葉を牛に食べられてしまうとその後の生長が悪くなるということで、それを避けるためにもしっかり柵を結うことが必要なのだそうです。


植樹場所まで苗木を運ぶ子供たち

苗木をポットから出すのを手伝う青年グループメンバー


苗木の葉が牛に食べられないように設置する柵を運ぶ子供たち

柵を針金で固定するため協力する子供たち


植樹作業を眺める子供

一列に整然と植えられた苗木

子供たちは、まったくそれぞれです。一所懸命苗木を運ぶ子がいると思えば、その一方で、苗木を植えている子をただじっと見守って佇んでいる子もあり、また、植樹にはかかわらずに校舎の前でスイカを食べ遊んでいる子もいます。カメラを向けると喜んで笑ってくれる子供もいますが、恥ずかしがって下を向いてしまったり、後ろを向いたりする子もいます。あまり細かい指示は誰も出さないのですが、それでも青年グループやプロジェクトでお願いしている植樹作業員の方々の助けもあって、作業は素早く終了しました。

 植樹を終えて再び集合した子供たちには、プロジェクトが作成した環境絵本を一人に一冊配りました。学校では、一人に一つずつ自分のものとして教材や文房具が配られることは無いとのことで、絵本は子供たち一人一人の大切な宝物になったようでした。絵本を手にするとどの子も静かになって興味深げにページをめくっているのが印象的でした。


植樹を終え環境絵本をもらった子供たち

■植樹した学校の訪問・・・

 環境ワークショップ開催校8校は以下の通りです。いずれの学校でも、植えた苗木は無事に生長しているのが確認できました。

クルール小学校・・・今年の4番目の環境ワークショップの開催校で、ここには1〜4年生までが通っています。教室は2つしかなく、現在追加の校舎を建設中です。ここではマンゴー40本を植えました。


クルール小学校の正門

クルール小学校の苗木の様子

ワットダムナック小学校・・・昨年ワークショップを開催して活動した学校で、校庭にたくさんあったゴミが劇的に減少し、とても清潔になりました。校舎裏手の窪地がコミュニティのゴミの投棄場となり周囲に悪臭を放っていたそうですが、プロジェクト活動の一環として溜まっていたゴミを処分し、土で窪地を埋め戻した結果、視察した際には、校舎の裏にもゴミの投げ捨てもなく、きれいになっていました。


ワットダムナック小学校の校庭で遊ぶ子供たち

ワットダムナック小学校の校舎裏の苗木

チェイ小学校・・・ここは昨年一番最初にワークショップを開催した学校です。ここでは、校門両脇の塀の内側と外側、校舎裏手の田んぼの畦道などに、マンゴーとコキを植えました。裏の田んぼに植えた苗木を見に行くと、子供達が裸足になって田の草取りをしていました。行政から配分される学校の予算が非常に少ないことから、多くの学校では独自に野菜づくり、米づくりをし、それを販売して資金を得たり、子供たちの食事の足しにしたりしているとのことでした。この小学校の校長先生は、とても精力的で学校のニーズを内外に上手く説明し様々な機関から校舎や遊具などの寄付を受けています。校舎に寄付者の名前が書かれているのが見えました。


チェイ小学校の正門

チェイ小学校の校門脇の苗木

クビエン小学校・・・ここは今年2番目にワークショップを開催した学校です。


クビエン小学校の門

クビエン小学校でゴミを回収して焼却炉に運ぶ子供たち

コックチョン小学校・・・今年1番目にワークショップを開催した学校です。ここでは学校を囲む柵に沿ってコキを植えました。


コックチョン小学校の正門

コックチョン小学校に植えた苗木

アンコールクラウ小学校・・・昨年ワークショップを開催した学校です。この学校はJSTがコミュニティへの支援活動を始めるきっかけとなった小学校とのことでした。1998年当時代表のチアさんが訪ねてみたところ、学校はジャングルの中にあり、校舎もとても傷んだ状態だったそうです。ここでも苗木はよく育っていました。また、お菓子の包装などのゴミも校庭に一隅の焼却場に集められているのがわかりました。


アンコールクラウ小学校の正門とその脇の苗木

苗木とチアさん・小出さん

コックベイン小学校・・・ここは今年3番目にワークショップを開催した学校です。


コックべイン小学校の正門

コックべイン小学校の井戸端に植えられた苗木

■ロータリークラブ(東京新橋、東京レインボーの両クラブ)が本棚、図書、文房具を寄贈した学校の訪問・・・

 当プロジェクトでは、東京新橋ロータリークラブ、東京レインボーロータリークラブからも支援をいただいています。今年4月の下旬に、両ロータリークラブから支援していただいた本棚、図書、文房具を贈った2校を訪問しました。

プランピーマカラ小学校・・・校長先生はもっと本が欲しいのですがと要望を漏らしていました。



プランピーマカラ小学校の正門

ロータリークラブから寄贈された本棚と図書

チュレイ小学校・・・ここは、シェムリアップ市から60キロほど離れたチクライン県にあるコンポンクデイという町にある分校(4年生までが通っている)です。この辺りは、地下水が深いところにあり、簡単に井戸を掘ることができないそうで、学校には井戸がありません。そのため、表流水を湧かして飲み水にしているとのことでした。来年からはこれまで町の大きな学校(コンポンクデイ小学校)に通学していた5年生にも授業をすることになるそうですが、5年生を受入れるための教室が足りない状況とのことでした。この学校で5年生を受入れることとなったのは、生徒たちの家から以前の学校までの距離が遠いために学校に通わなくなってしまう生徒が多くいたためだそうです。


チュレイ小学校の正門

ロータリークラブから寄贈された本棚と図書

 この学校の視察直後にコンポンクデイ小学校を訪問しましたが、こちらは1000名の生徒が通う町一番の小学校で校庭も広く、設備の整った学校でした。同学年に通っていても、分校のような小学校とこの小学校とでは、図書館など生徒が使用できる設備も、まったく異なります。教育の質にも差が生じるであろうことが容易に想像され、課題が大きいことを改めて感じました。

■雑炊会・・・

 現在、JSTでは、「アンコールの森」再生支援プロジェクトの一環として、アンコールクラウ村周辺の子供たちの保健衛生の改善しつつ教育支援を行う雑炊会という活動を月2回程度の頻度で実施しています。アンコールワット遺跡周辺の村でも人々の生活はまだまだ貧しく、子供たちの多くが栄養のある食べ物を十分に食べることができないというのが実情です。ですから、視察した雑炊会の当日も、それはそれは多くの子供たちが朝早くから会場であるコミュニティセンターに集まってきていました。おそらく200人程度が参加したものと思います。

 村の女性たちの協力を得て、2つの大きな鍋で数回に分けて、雑炊を作り、それを子供たちにふるまいます。子供たちは、各自で食器を持参しみんなで集まって雑炊をいただきますが、雑炊ができるまでの時間は、村の青年グループの出番です。子供たちに絵本を読んで聞かせたり、クイズやゲームをしたり、歌を歌ったりと、いろいろなアイディアで子供たちとの楽しい時間を過ごします。その過程でも、子供たちはいろいろなことを学びます。

 雑炊が出来上がるのが近づくと、だんだんみんなが落ち着かなくなってきました。JSTのスタッフによれば、みんなはじめの一杯を食べるまではもうすっかり美味しい雑炊のことで頭が一杯なのだそうです。それでもどの子もとても行儀よく、雑炊をよそってもらう順番を静かに待っていました。そして、みんな5杯も6杯も気持ちのよいくらいによくお替わりをしてくれました。


雑炊会に集まった子供たち

雑炊会での青年グループと子供たちの歌の練習


大鍋での炊事の様子1

大鍋での炊事の様子2


食事会の様子

雑炊を器に盛る青年グループメンバーと子供


車座になって雑炊を食べる子供たち

コミュニティセンターの庭での食事風景


一般財団法人国際開発センター「アンコールの森」再生支援プロジェクトチーム