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日本評価研究4巻1号
The Japanese Journal of Evaluation Studies Vol. 4, No. 1

特集:ジェンダーの主流化とインパクト評価

特集にあたって

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大沢真理
東京大学・
日本評価学会学会誌編集委員

【巻頭言】

 広い意味での社会政策の研究は、近年、福祉国家の比較論を焦点の1つとして空前のブームともいえる状況にある。そこでは、ジェンダーが分析の基軸の1つとされているのである。比較福祉国家論の対象は、従来はOECDメンバー国のなかでも「先進国」に限られていたが、ラテンアメリカ諸国の累積債務危機、1997年のアジア経済危機などを契機として、「社会保護」制度の整備が進んだこともあずかって、今日では、中南米諸国、東南アジア諸国に広がり、開発の政治経済システムの比較論と交差しつつある。

 福祉国家論におけるジェンダーの意義を見よう。経済のグローバル化のもとでは、福祉国家の「衰退」が避けられないとされるいっぽうで、その研究は、レジーム論を中心として空前といっていい活況を呈している。そのなかで、福祉国家とは、先進国内の労使関係、先進国・途上国の関係、そしてジェンダー関係という20世紀後半の3つの政治経済的力関係の結節点であり、それらの力関係の推移が福祉国家の今後の帰趨をも左右する、と指摘されている。より端的に、ジェンダー関係の変化こそが福祉国家を呼び出したという趣旨の定義もおこなわれている。

 とくに、先進国と途上国それぞれにおけるジェンダー関係は、先進国福祉国家の前提だった。先進国では、妻子を扶養する男性フルタイム労働者(「男性稼ぎ主male-breadwinner」)が雇用保障と社会保障の対象であり、女性が無償で家族の育児や介護をおこなうことが、社会サービスの制度設計にあたって、暗黙のうちにも、前提されていたのである。なおかつ、先進国の経済成長を支えた途上国の「安価」な産品は、生存維持的な第1次産業や都市のインフォーマル・セクターでの女性の無償労働に支えられていた。

 このような研究状況は、もちろん“おのずと”現出したのではない。エスピン・アンデルセンは、1990年の著書『福祉資本主義の三つの世界』で国際的な注目を集め、最近にいたる福祉レジーム研究のブームの旗手となったが、初期の福祉国家類型論は、「ジェンダー中立的」なタームで記述や分析をおこないながら、分析の概念や単位が男性を起点にすることが少なくないと、フェミニストに批判された。たとえば、社会的な権利や資格をえるためのさまざまな根拠について概念化する作業で、年金や定住権など女性が夫をつうじて得る権利のようなものは見逃されていた。

 そうした弱点は、日本を的確に位置づけることの困難に集中的に表れていた。エスピン・アンデルセン自身が『福祉資本主義の三つの世界』の「日本語版への序文」で認めたように、日本は彼の類型論にとって試金石でもあるような分類困難なケースだった。ところが、ジェンダーに敏感なアプローチにより、たとえば仕事と福祉におけるジェンダー(不)平等などの指標を組み込むと、日本がギリシャやスペインに近いことが鮮やかに示された。そこで、ジェンダー分析に呼応してエスピン・アンデルセンも、90年代後半以降、国家と市場にたいする家族の関係を分類指標に組みこみ、福祉国家類型論から福祉レジーム類型論へと研究を進化させることになった。具体的には、福祉国家からの給付または市場からの供給によって、家族の福祉やケアにかんする責任が緩和される度合を、「脱家族化」という指標として導入したのである。

 では、「脱家族化」の系譜はどのようなものか。欧米諸国が福祉国家建設を進めた第2次世界大戦後には、「男性稼ぎ主」の規範は、いずれの国でも強く、実際にも女性の男性にたいする経済的依存度は大きかった。とはいえ、各国の福祉国家の制度設計は一様だったのではない。スウェーデンの制度では当初から「男性稼ぎ主」規範の刻印が薄く、早くも1970年代には「男性稼ぎ主」型から離脱した。他方でオランダは、1970年代には「男性稼ぎ主」型の代表ともいえる状況だったが、経済・財政危機に対応する雇用・福祉改革をつうじて、80年代以降、男女ともパートタイム労働で夫婦合わせて1.5人分稼ぐという「オランダ・モデル」を生みだし、危機を克服した。これにたいして日本の「男性稼ぎ主」型は、高度成長期以降に導入され80年代に強化された。

 ジェンダー視点に立つ研究が、社会政策論や開発の政治経済システム論にとって、豊かな新地平を切り拓く可能性をもつことが、理解されるだろう。政策評価においても、男女平等や女性の地位向上に関与することが明白な施策のみならず、一見して関与がないと思われるような政策・施策・事業をも対象にして、それらの政策等がジェンダー関係にどのような影響を及ぼすかを分析・評価することが、きわめて重要となるゆえんである。1995年の第4回世界女性会議では、政府の施策の企画・立案、実施、実施後の見直しなどの各段階に男女平等の視点を組み込むことが、「ジェンダーの主流化」と呼ばれて強調された。英連邦圏では「ジェンダー予算」、日本では「男女共同参画影響調査」として、実際にとりくまれている。政策の副次的効果や波及効果、間接的費用等を問題にする評価であり、「総合評価」の典型といえる。

 本特集は以上を背景にして組まれている。村松安子氏には、世界でも新しく、日本社会にまだ定着していない「ジェンダー予算」概念を明確にする論考を頂戴した。ジェンダー予算分析の中で、どのような具体的な政策評価の分析ツールが開発途上であるかが提示されている。そのうえで、この分析手法が男女共同参画社会の形成という政策評価にどのように有効に適用しうるかが、理論的・実証的に検討されている。ジェンダー予算においては、通常の予算編成の基礎となるマクロ経済分析モデルの枠組みを問い直し、いわゆる「生産部門」の活動と「再生産部門」の活動の接合を問題とすることになる。

 田中由美子氏には、国際協力におけるジェンダー主流化の概念を明確にし、総合的なジェンダー政策分析および評価の手法を探る力作を寄稿していただいた。詳細な力作であり、通常の本誌の紙幅を超過するため、第一部と第二部に分けて掲載することとなった。総合的なジェンダー分析評価手法は、日本の国際協力および他の国際援助機関においても十分に検証されておらず、先行事例研究に基づく試みが始まったばかりである。ジェンダー主流化とは、ジェンダー平等の視点を全ての政策・施策・事業の企画立案段階から組み込んでいくことをいい、その視点に立って計画・実施・モニタリング・評価を行う過程である。

 雑賀葉子氏には、内閣府男女共同参画局に設置された影響調査事例研究ワーキングチームが、2003年11月にまとめた「影響調査事例研究ワーキングチーム中間報告書〜男女共同参画の視点に立った施策の策定・実施のための調査手法の試み〜」を紹介していただいた。影響調査の基本的な考え方を踏まえた上で、旧総理府の男女共同参画室が設置した男女共同参画影響調査研究会が2000年12月にまとめた「男女共同参画影響調査研究会報告書―男女共同参画の視点に立った政策過程の再構築―」と対比して、影響調査事例研究ワーキングチームの中間報告書がさらに進展させた具体的な調査内容について解説し、WT中間報告書をまとめる作業をワーキングチームの事務局として担当した経験から、今後の課題について展望している。

 イギリスのWomen's Budget Group からは、2002年予算にたいするコメントの掲載を承諾していただいた。上記のように女性予算については、村松論文に詳しい。リーズ大学教授のSylvia Walby氏は、1980年代から世界のジェンダー研究をリードしてきた第一人者であるとともに、ヨーロッパ社会学会の初代会長を務めるなどヨーロッパを代表する社会学者であるが、WBGの共同代表でもあり、今回の寄稿に際して解題を執筆していただいた。

 本号の特集および次号に掲載される田中論文の第二部を契機として、ジェンダー視点にもとづく政策のインパクト評価がより広く研究され実施されるようになれば、幸いである。

 

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