日本評価研究Vol. 3 No.1 目次に戻る

日本評価研究3巻1号
The Japanese Journal of Evaluation Studies Vol. 3, No. 1

【巻頭言】

特集:政府開発援助(ODA)における評価の新たな潮流

特集にあたって


三好 皓一
日本評価学会学会誌編集委員長

 開発協力は、従来事業の実施管理に焦点を当ててきたが、今日成果を重視するようになり、評価はそのための手段として注目されている。1996年の経済開発協力機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)上級会合での「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」(通称「DAC新開発戦略」)の採択や2001年の国際連合総会でのミレニアム開発目標の採択に見られるように、国際開発の世界では成果を重視する開発事業が求められており、開発協力は大きな転換を要求されている。このような背景を踏まえて、開発援助機関や開発途上国は、成果を重視した開発戦略の構築を目指している。貧困削減戦略ペーパー(PRSP)やセクターワイド・アプローチ(SWAPs)など開発アプローチへの変化や、また、地方分権化等による市民・住民により密着した開発事業の重視はその変化を表すものであり、評価もこのような動きに対応しなければならず、ODA評価自体が大きな変革期を迎えている。

 本特集テーマはこのような背景の下に採り上げた訳であるが、構成するに当たっては大きく3点を考慮した。第1に、開発協力の成果を追求することによって開発協力の有効性に対する評価にとどまらず開発途上国の開発の有効性を評価することが重視されてきており、これに対応するために評価実施体制を再検討しなければならないのでないかという認識、第2に、従来評価は事業に焦点を当てて実施してきたが、今日では事業のみならず政策や施策が問われているのであり、政策評価やプログラム評価を重視していく必要があるのではないかとの認識、第3に、評価が、従来の事後評価を中心とした考え方から事前評価、中間評価、終了時評価、事後評価と事業サイクルの全てに関わるようになってきたことによる評価の守備範囲の変化への対応を整理することが必要でないかとの認識である。

 本特集の目的は、このような点を踏まえ、最近のODA評価の現状を整理・再検討し、今後のODA評価の実施に示唆を得ることである。本特集では、そのためにこの分野の研究や経験を持たれている研究者及び実務家に執筆をお願いし、掲載の論文、実践・調査報告では、ODA評価における変化とともに今後の評価の方向性に対する示唆を提示していただいた。

 井本佐智子氏には、援助機関の合同評価の役割と可能性について報告していただいた。本報告では、開発パラダイムの変化と評価の変質、最近のOECD/DAC評価作業部会での合同評価とともに、現在実施中の基礎教育分野の合同評価を事例として、その背景・経緯、実施体制、評価調査のアプローチ、評価設問と調査の組み立て、そして今後の可能性を整理し考察している。特に、開発効果の評価における援助全体及び各援助機関の政策の適切性の向上、援助の戦略性と有効性の向上、関係者の政策対話の強化に向けての合同評価の役割が強調される。

 Jody Zall Kusek氏とRay C.Rist氏には、開発途上国の成果を重視したモニタリング・評価システムの構築について議論いただいた。本論では、開発途上国がより成果を重視した政策・行政運営を達成するための成果を重視したモニタリング・評価システムとともに、最近世界銀行が開発したモニタリング・評価システムの構築の可能性についての評価手法をキルギスを事例として考察する。本論では、従来、援助国が中心としてきた援助効果の評価から開発効果を評価するために開発途上国の評価体制の強化の重要性が強調される。

 西野桂子氏には、1999年に提唱された世界銀行の開発理念である「包括的開発フレームワーク(CDF: Comprehensive Development Framework)の評価について、評価結果とともに評価の枠組みの設定について提示いただいた。CDF合同評価自体は6カ国の国別ケーススタディーによって構成されているが、本報告では、同氏が参加された「ベトナム国別ケーススタディー」を事例として、CDFの理念、評価調査の起案、30もの国や機関が参加する合同評価委員会の設立に発展した経緯、そしてベトナムの現状に合わせた評価フレームを構築した過程及び調査結果について考察する。本報告は援助理念を評価するという新しい試みの在り方を示唆する事例を提供する。

 三好 皓一、平田 慈花、和田 智代、中澤 哉、喜多 悦子の諸氏には、フィリピン感染症対策分野の評価を事例としてプログラム評価に対する試みについて報告していただいた。本報告は、三好氏が提唱するプログラム・セオリー・マトリックスを使って個別プロジェクトを協力プログラムとして統合しての評価対象の設定とこれに基づくプロセス評価、インパクト評価、個別事業の開発文脈での実績評価を考察し、プログラム評価の事例を提供している。従来、個別プロジェクト評価の積み上げを主体とした評価に対して、複数プロジェクトのプログラムとしての成果に焦点を当てた評価の可能性を示唆する。

 松澤猛男氏には、国際開発銀行(JBIC)の戦略的評価を議論していただいた。本報告では、1975年から17回にわたりタイの農業・農業協働組合銀行へ実行された円借款を事例に、タイの農業・農業協働組合の戦略の変遷を跡付けるとともに既存評価を基に農業・農業協働組合銀行への円借款事業について戦略的視点から考察を行っている。考察結果として戦略のもとでの事業の実施、またそのために戦略の評価のための明確な評価枠組みの設定の重要性を強調している。

 牟田博光氏には、アウトカムを重視した評価方法について報告をいただいた。本報告では、1999年から2001年にかけ国際協力事業団(JICA)の開発調査として実施したインドネシア国地域教育開発支援調査と2002年から2005年にかけ実施している同フェーズII調査を事例として、事前、中間、事後の一貫した視点での評価を基にプロジェクトを実施していくことの重要性と、そのために事前に構造的な調査によって成果をあげるのに必要な要素間の関連を把握しそれら要素を適切に組み込んだ総合的なプロジェクトを構築することの必要性を強調している。また、本報告は、この調査結果を基に、特定のプロジェクト活動に偏りがちなわが国の国際協力のプロジェクトの構築のあり方に対して今後の方向性を示唆している。

 それぞれの論文及び報告は今後のODAの評価のあり方の方向性を示唆するものであり、これを機会にODA評価の範囲が広がることとともに評価の議論が深まることを期待する。


日本評価研究Vol. 3, No.1 目次に戻る

日本評価学会トップページに戻る